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最高裁判所第二小法廷 昭和50年(行ツ)14号 判決

東京都目黒区上目黒五丁目一三番九号

上告人

下村キク

右訴訟代理人弁護士

中條政好

東京都目黒区中目黒五丁目二七番一六号

被上告人

目黒税務署長大野良男

右当事者間の東京高等裁判所昭和四九年(行コ)第四五号所得税更正決定等取消請求事件について、同裁判所が昭和四九年九月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中條政好の上告理由について。

本件訴えを不適法とした原審の判断は正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解に基づき原判決を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊)

(昭和五〇年(行ツ)第一四号 上告人 下村キク)

上告代理人中條政好の上告理由

(一) 事実関係の概要

一、上告人が昭和四四年分所得税申告額につき所轄目黒税務署長から更正され、その決定通知書を受取つたのが昭和四五年十月十六日、之に対し同年十一月七日異議を申し立てたが棄却され、その通知書を昭和四六年二月五日受取り、同年三月八日付で東京国税不服審判所長宛に審査請求をした処、審査請求申立期間(国通法第七七条第二項)経過後の不適法な請求として却下され、上告人はその裁決書謄本を同年七月一一日受取り、本訴は行政事件訴訟法第十四条第一項「取消訴訟は処分又は裁決があつたことを知つた日から三箇月以内にしなければならない」との規定に従い之を提起した。

二、処が一審二審共に訴訟では訴願前置の段階において審査請求申立期間を徒過し却下されて、その内容について審査庁の裁決(国税通則法第一一五条第一項)を経ていないという理由で、本訴は被上告人の本案前の答弁通り却下され、やむを得ず当該上告に及んだものである。

三、然り被上告人主張の通り通則法第七七条第二項は国税にかゝる審査請求は異議申立棄却決定通知書の謄本の送達があつた日の翌日から起算して一ヵ月以内にしなければならないと規定されている。

四、処が昭和四五年法律第八号により同年五月一日から国税通則法の一部が改正されている。

1. 改正された同法第八〇条第一項は次のように規定している。

「国税に関する不服申立てについてはこの節及び国税に関する法律に別段の定めがあるものを除き行政不服審査法(第二章第一節から第三章までを除く)の定めるところによる」と規定している。

次に行政不服審査法第十四条第一項は、審査請求申立期間につき当該異議申立決定があつたことを知つた翌日から起算して「三〇日以内」にせよと規定している。

2. また改正前の旧法第七五条では次のように規定している。

「国税に関する不服申立てについては、この節及び他の国税に関する法律に別段の定めがあるものを除き行政不服審査法の定めるところによる」と規定していた。

3. 処の審査法では、その第十四条第一項において前項同様に当該異議申立決定があつたことを知つた翌日から起算して「三〇日以内」にせよと規定していた。

4. 期間を計算する場合一ヵ月を三〇日若しくは三一日として知るは常識である。しかし二月から三月に跨る「一ヶ月」の期間につき二月に知つた日を除きその翌日を起算日として三月の応当日の到来を以て法律が一ヶ月の期間と決めたことを知る者は玄人である。

素人のうちにはこれを知らず二月と三月に跨る一ヵ月の期間は依然三〇日と判断する者が多いようである。

五、行政不服審査法の制定及び訴願法の廃止

1. 行政不服審法は昭和三七年九月十五日法律第一六〇号により制定され附則第一号により同年十月一日から施行され同第二号により訴願法は廃止されている。

2. 異議、審査による不服申立ては原則として廃止され処分の取消訴訟に関して他の法律に別段の規定があるものについてのみ不服申立ての規定が残されているに過ぎない。

国税通則法第一一五条はその顕著な一例である。しかも審理に国は納税者の権利救済の万全を期し教示制度を導入し、又国税の審査請求の審理には細則を設け、且国税不服審判所を設けて之に当らせる等専ら福祉憲法各規定の具現を図つている。

六、行政事件訴訟法の制定

1. 行政事件訴訟法は、昭和三七年五月十六日法律第一三九号により制定され附則第一条により同年十月から施行されている。

2. 最も顕著な規定は原告適格に関する第九条括弧内の規定により、即ち処分の取消しを求める訴は、処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由により、なくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者に限り提起できることになつたことである。

(二) 上告理由

一、そこで通則法第一一五条第一項の規定即ち処分の取消しを求める訴訟は裁決を経た後でないと提起できないとする同条第一項の規定は行政事件訴訟法第九条括弧内規定の制定、施行により審査請求の段階において若干の理由は残るとしても訴訟の段階においてはもはや空文同様である。

従つて行政事件訴訟法第九条括弧内規定の排除を論せず単に審査請求申立期間の徒過だけを理由として却下の裁決をした処分は重大且明白な違法処分であり、かゝる重大且明白な瑕疵ある違法処分を看過して上告人の請求に対し却下の判決を下した一審及び二審の各判決は、何れも民事訴訟法第三九四条所定即ち判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背あることに該当すると言わざるを得ない。

よつて之を当該上告の理由とする。

申立

一、よって原判決を破棄し更に審理するため本件を原裁判所え差戻を求める。

二、訴訟費用は全部を被上告人の負担とする。

右趣旨の判決を求める。

以上

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